「大学受験まであんなに英語の勉強をしたのに、どうして英語力がついていないのだろう?」
「英検やTOEIC などのテストの点数は高いのに、どうして英語でコミュニケーションが充分できないのか?」

と思っている大人の方は多いと思います。そして子どもがいる場合、
「子どもには、自分と同じような英語学習の道を繰り返させない ほうが良いのでは?」
となんとなく感じている方も、同様に多いのではないでしょうか。

このモヤモヤが少しでもスッキリするかもしれないキーワード:臨界期仮説
について、考えてみたいと思います。

 

臨界期仮説とは?

言語習得の臨界期仮説という言葉を聞いたことはありますか。 子どもたちは幼少期においてはどの子も言語習得の天才です。皆、自然に言葉を覚えていきますよね。でもこの苦労がいらない自然な言語習得能力が、ある一定の年齢時期を過ぎると消えていくという

「仮説」です。「仮説」ですから、まだ完全な事実と言えず、議論はあります。でも、千人規模の子どもたちを見てきたインターナショナルスクール運営経験で見てきた事実は、

「個人差はあるけれども、結構当たっている」

だから、臨界期終了後の英語学習は、幼少期とは異なる学習ストラテジーが必要になってきます。臨界期(critical period)というコンセプトは、もともとは動物行動学の「刷り込み現象」から来ています。雁の雛が、生まれて初めて目にする物体の後をついていく、という事例をテレビや本で見聞きしたことはありませんか?

この刷り込み現象は、生後数十時間という、限られた時間にしか起こらないと言われます。この時期を「臨界期」と呼びます。同様に、臨界期仮説とは、人生の始まりである幼少期のある一定期間を超えると、ネイティブスピーカー並に外国語を習得することは非常に困難であるという説があります。

 

臨界期とはいつなのか?

では、その臨界期とは、どのタイミングなのでしょうか。

これがいつなのか(そもそも存在しているのか)、一致した研究者の見解はありません。大まかには 10 歳 -12 歳ごろとする説が多いです。これは私の肌感覚とも大体一致します。5-10 歳ごろまでにはじめておけば、比較的英語力の向上はスムーズです。

発音などの音声の臨界期はもう少し早く、6 歳ごろともいわれます。発音は、臨界期を越えれば超えるほど、正確な発音は舌の位置や口の開き方の指導がなければその習得は難しくなります。

一方で、幼児期から英語に日常的に触れていた場合、そのような ことを一切教えなくても、正しい発音での発話ができるでしょう。  皆さん自身も、日本語を習得するプロセスで発音の仕方を学んでないのと同様、多くの人にとっては人生において幼少期のみ、容易

まさにこれができるのです。

我が家の事例でも、正しく発音ができる子どもは、親が「アップル」といっても、幼少期の子どもは「アップルじゃないよ、アポーだよ」と、かわいく訂正してきます。

また、英語の発音が一時的に日本語の発音に影響を与えることも あります。

例えばこれも我が家の事例ですが、子どもが 3 歳児の時に、「はひふへほ」の「は行」がF に影響され「ごはん」を「ごふぁん」と呼ぶ現象が見られました。しかしこれも、5 歳くらいになると、日本語と英語の音の蓄積により自然と正しく発音するようになりました。ただし、英語自体がグローバル言語となった現代、きれいな米・ 英アクセントにこだわる重要性は以前より減っていると思います。 日本の今の大人の皆さんの多くは、中学校になって初めて英語の授業に触れているケースが多いでしょう。

臨界期を過ぎてからはじめているのだから、特にリスニングとスピーキングにおける英語習得が難しいのはもっともともいえます。 インターナショナルスクールの生徒たちを見ていても、言語の習 得スピードは、家庭学習の量や質などの様々な要因が複雑に影響し

ていると思います。でも、年齢は語学習得プロセスにおいて影響力を持っており、年齢と共に、「自然に」言語習得を身につける能力が落ちることは確 かであるといえるでしょう。しかも、特に都市部においては、小 3 の 2 月あたりから、数割の子どもたちが「中学受験競争」に参戦します(そのまた数割は小 1、小 2 から……)。

第  2   言語をより自然に習得できる大事な時期に、大量の別のインプットをすることになるのです。

保護者の皆さんには、臨界期仮説を頭の片隅に置きながら、いつ、 どのように、英語学習をすべきか(またはしないのか)しっかりと方針を検討頂ければと思います。

 

臨界期を過ぎてしまった?

臨界期を過ぎても過度に悲観する必要はありません。

たとえば日本でも大学生に対し、12 歳よりも前の学習者と後の学習者では、早期学習開始グループのほうが音の聞き分けで上回るが、文法では差が出ないという研究があります。

思春期以降からでも高いレベルの言語力を身につけた人は沢山います。ただその場合、以下の要件があるでしょう。

 

強い動機があり、英語学習について継続的に努力をしたある時期に集中して英語環境におり、母語話者と、第二言語のコミュニケーションを積極的に行い、意識して発音のトレーニングに取り組んだ。

特に大事なのは、1つ目のポイントです。中学生になってからの本格的なバイリンガルの道は、本人が動機を持つこと(親にとっては動機づけをすること)が本当に大事です。

無理やり、とか、自然に、という形が難しいのが思春期ですので…… 経験値で見ても、臨界期は、ある年齢から崖のように言語習得能力が下がるイメージは持っていません。ですが、はじめるなら少しでも早くはじめたほうが良いでしょう。

特に、「自動翻訳時代に子どもの英語学習は必要ない?を考える」でお伝えした通り、今後のAI  時代においては、語学は自動翻訳で代替しやすい「読む・書く」能力以上に、「聞く・話す」力がより 重要です。この  2  つの能力は、やはり若いときにスタートしたほうが有利です。

こちらの記事は以下の書籍を参考にして書いております。

AI時代に必要な学び~インプットからアウトプットの競争へ~ 大前研一通信特別保存版.
著者:大前研一
共著者:宇野令一郎 株式会社Aoba-BBT常務執行役員
熊本大学大学院非常勤講師(教授システム学)
元アオバジャパン・インターナショナルスクール理事
元ムサシインターナショナルスクールトウキョウ理事長