※この原稿は、2022年4月9日開催された「GO School」セミナーを基に編集しています。

eduJUMP!編集者 冨永雅美

元アオバインターナショナルスクール、ムサシインターナショナルスクール理事を務め、現在は株式会社ビジネス・ブレークスルー、グローバル人材育成事業本部長を務める宇野令一郎氏。

今回のセミナーでは、国際評論家でありeduJUMP! とISTの編集長をそれぞれ務める村田学氏と、プリスクール卒業後の子供たちについて対談を行いその様子を取材しました。プリスクールで英語に慣れ親しみ始めた子どもたちは、小1になると大きな「壁」にあたるといいます。

また、その「壁」を乗り越えた子供たちにはさらに、「バイリンガル」という新たな挑戦が待ち受けています。プリスクールやインターに通う多くの子供たちを見てきた経験のあるお二人が、小児期の英語教育に警鐘を鳴らします。

2022年4月に実施されたGO Schoolの「GOセミナー」から見えた、英語習得への侮れない落とし穴や教育のカタチについてお伝えします。

 

日本で起きている英語の悲劇

インターネットを始めとした急速な技術進歩が進み、グローバル社会となった現代で英語の必要性は誰もが認知していることでしょう。

世界中での話者人口に加え、インターネットで使用される言語でも、英語は1位。ビジネスの世界においても当たり前のように要求されます。

しかしながら、日本の多くのグローバル企業では以下のように多くの悲鳴が上がっています。

 

>某大手自動車メーカー:仕事ができる人を海外に送りたいが、彼らの英語コミュニケーション力は、プリスクール卒業生以下。
>某電機メーカー:日本人国際人材は足らない一方、皮肉にもナショナルスタッフのレベルはそれよりもはるかに高い。
>某大手製薬企業:英語は「できて当たり前」だけど、日本人はとにかく発信力がなさすぎる。
>某外資系:英語ができても、異文化理解やグローバルマインドが足りずコミュニケーションがうまくいかない。

ご覧のように日本は「英語ができない」と「コミュニケーション力不足」のダブルパンチ。加えて英語力が将来の収入を大きく左右する、というデータもあり、日本と海外との英語力の差は、今後、所得格差にも徐々に現れてくると予想されます。

 

子ども期の「言語喪失」とは?

お二人の経験から、子ども期とは、「言語の習得速度も速い一方で、喪失速度も速い時期」であるといいます。例えば、8歳くらいの子ども(まさに小学1年生ごろ)は、海外から帰ってきて日本語ばかり使っていると、すぐに他言語の使い方を忘れてしまいます。

多くの親御さんから、たとえ英語に強いとされる進学校等に進学したとしても、経験上2年ほどで英語を忘れてしまうというお話も聞きました。言語は、スピーキング・語彙→文法→発音の順に喪失していくことが、言語習得理論からも経験からも自明です。

一方で、社会で最も必要とされるのは、他人とコミュニケーションをとるためのスピーキング・語彙であることが多いです。だからこそ、小児期で習得し始めた他言語に関して、プリスクール卒業後や帰国後も継続的に言語に触れる機会を作ることが非常に重要だといいます。

また、先ほどの企業からの声でも示したように、英語だけできることは今やアドバンテージではなく、スタートラインであるといいます。博識であっても思考力や行動力のトレーニングを怠ってきた人間や、行動力はあるが根底となる知識や思考力が欠落している人間などには厳しい目が向けられているのも事実です。

つまり、日本語と英語ができることを前提に、知識・思考力・行動力が三位一体となることが、国際社会で活躍するグローバル人材を育てることにつながるのです。

 

「臨界期仮説」とは?

「臨界期仮説」とは、人生の始まりである幼少期のある一定期間を超えると、ネイティブスピーカー並に外国語を習得することが非常に困難になるという仮説です。

臨界期がいつなのか、そもそも存在するのか、といったアジェンダに対して研究者の中でも一致した見解はありませんが、おおよそ10〜12歳であるといわれています。つまり、小学生になる前に英語を身に着けることは大きなアドバンテージであり、かつ、臨界期である10歳ごろまで継続することがバイリンガルへの必要十分条件です。

この仮説の面白いところは、手の平を返すと、第二言語の習得において、一定のレベルを超えた場合はかえって言語を忘れにくくなる、ということです(スポーツで、ある程度上達したら数年のブランクがあってもうまくプレイできるのと同じです)。

米国国務省FSIの研究によると、この一定のレベルとは、日本の英検2級程度を指しています。では、日本語→英検2級レベルの英語力を身に着けるにはどれくらいの時間を要するのでしょうか。

答えは約2000時間です。

日本語と英語のように言語体系に類似性が見られない場合はこの程度が必要ですが、フランス語→英語であれば約600時間ほどで習得可能です。プリスクール卒業時点ではすでに約1000時間を確保していますが、残り1000時間を卒業後にどうするのかを考える必要性があると宇野氏は強調します。

ここで注意してほしいのが、単に時間だけ書ければよいというわけではなく、子どもの英語レベルや発達段階に即した教育方法が実施されていることが前提条件となります。

一般的に、能動的能力(話す・書く)は受動的能力(聞く・読む)より早く喪失することも知られています。宇野氏は、自身の経験からも、喪失スピードの遅い「聞く」、「読む」を自宅で補強すれば、英語力維持と英語の学習時間確保に役立つといいます。

参考例として、「聞く」側面からは、Netflix、Amazon Prime、Disney+、YouTube等。「読む」側面からは、絵本から活字の本へと移行していくことが理想的です。いうまでもなく、「話す」、「書く」を自宅で補強することも大切ですが、自宅で補強しづらく、それなりのスキルも要求されるため、現実的ではないかもしれません。

 

バイリンガルへの道

バイリンガルとは、決して「2か国の言語を等しく操ることのできる人」ではなく、「母語以外の言語でコミュニケーションをとれる人」と定義することが、一般的となっています。

バイリンガルは、日本語でインプットしたのを英語でアウトプットすることができ、その逆も可能であることから、ものリンガルに比べて思考力・想像力にたけている場合が多いといいます。

ただし、片方の言語の習熟度が、先ほど記載しました英検2級レベル以上を超えていないとこのメリットを享受することは難しいことも知られています。目標とすべきマイルストーンは、①小学校在学中に英検2級以上を取得すること、②20歳でバイリンガルを完成させること、です。

バイリンガルの実現には、なんといっても質×量×継続年数が大事です。一つずつ分解して解説していきます。

 

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ポイントその1「質」
①発達段階に応じた知的好奇心を刺激する内容が、適切な英語レベルであること
②教育者が教職有資格者の先生

ポイントその2「量」
①2000時間以上を目安
②リーディングの習慣づけ(絵本→活字の本)
③リスニング(Netflix、Amazon Prime、Disney+、YouTube等)
④スピーキング(他者とのコミュニケーションのトレーニング)
⑤ライティング(自身の考えを構築し、他人に伝えるトレーニング)

 ポイントその2「継続年数」
①中学受験をするかしないか
②ほかの習い事との優先度

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 以上のような環境を、完璧でなくても保護者の方々が子供たちに対して積極的に整えてあげると同時に、親と子供の双方向的な学習・教育のカタチを各家庭で模索していく必要があるでしょう。

 

子どもの英語教育の力点、今後の英語教育にも期待

プリスクール卒業後、英語力を継続して伸ばしていくためのノウハウや、英語だけでなく知識・思考量・行動力の三位一体が最も重要であり、英語習得のみを目標にしてはいけないと語ってくれたお二方。もちろん、各家庭や環境によって事情は様々であり、こうすれば必ずうまくいく、といったテンプレートは存在しません。

また、言語習得理論自体も明言できない不確実性を含んでいるものです。しかし、今後英語ができて当たり前、英語をあくまでもツールとして使用し、新たなものを創作することが求められる子どもたちにとって、保護者が幼少期から積極的に環境を整え、英語に浸す時間を少しでも長くする試みはますます重要性を増してくると予想されます。

GO Schoolセミナーで宇野氏と村田氏の対談から見えてきた、幼少期の英語教育のカタチ。文部科学省による英語の教科化や英語入試導入高の増加もまさにホットトレンドとなっている現代で、日本の英語教育の動向からは、目が離せません。

 

 

 

質疑応答

Q.オンライン英語で英語力を身に着けることは可能か。

A.答えは不可能である。
コミュニケーションのうち、約7割はノンバーバル(言語以外の部分)によって伝えられる。オンラインではその残りの約3割のみしか補うことができない。子供が学習を楽しむことのできる、マイルストーンを構築することを前提に、オンラインと対面を併用することが長期的な英語力の習得に繋がる。

 

Q.技能に継続的に触れられる機会はどうしたら得られるか。

A.様々な授業や活動を英語で受けることが大切である。
例えば、地域のボランティアセンターでいろいろな国からやってきた外国人のサポートを積極的に務めることが挙げられる。また、面白いのは教会に通うことで、神父さんや牧師さんが外国人であることがほとんどのため、それもよい対話の機会となる。

 

Q.小学校以降のインターナショナルスクール継続はどうか。

A.日本人としてのアイデンティティを保持したいのか、捨てたいのかが重要である。
基本的にインターナショナルスクールは第一言語が英語になることを希望する、学校と保護者の集まりである。本を読む際に英語で書かれている方が楽、というレベルである。

ちなみに、奨学生をインターに通わせるのは義務教育違反であり、国からの補助金も出ないため、学費は必然と高くなってしまう。

 

Q.算数や理科などの教科は、インターナショナルスクールではどうなのか。

A.インターナショナルスクールは主に国際バカロレアとケンブリッジの二種類存在する。
前者は教科を横断する形なので、各教科の専門的なレベルは落ちるが、総合的な発言力やアピール力は高まると予想される。ケンブリッジは日本の学校とあまり変わらないとされている。

よく言われているのが、日本の学校の理数教育のレベルは世界的にも高いため、社会に出てから使うかどうかは別として、理系進学を強く進めているのであれば、日本の学校の方が客観的に適している。