「バイリンガル」の定義
ここでは、日本の学校に通いながらバイリンガルを目指す場合に、先にご理解頂きたいポイントについて、考えてみたいと思います。
なお私たちが考えるバイリンガルレベルの英語力のゴールは以下の通りです。
大人になった時点で、フルネイティブでないにしても、仕事や日常で英語に困らない英語レベル
皆さんは、「バイリンガル」にどのようなイメージを持っていますか。「二言語の両方を等しくネイティブレベルで操れる人」?理想的 です。でもこのレベルは、インターナショナルスクールを運営してきた者としての感覚ですが、インターの生徒でも 3 割くらいでそうはいません。いくつかの研究でも、非常に高い第二言語能力を身に着けた早期学習開始者でも、難易度の高いテストにおいて母語話者と全て同程度の人はほとんどいない、ということが示されています。
「バイリンガル」というときには、「等しく」にこだわらず、母語 以外の言語でコミュニケーションできる人をバイリンガルと定義す ることが、一般的となっています。
バイリンガルを目指す所要時間と目指すレベル
日本の学校に通いながら、バイリンガルを目指すには、少なくとも 2000 – 3000 時間程度の英語時間を確保する数年にわたる長期戦であることを、予め念頭に置く必要があるでしょう。
また、日本の幼稚園・小中学校に通いながらバイリンガルを目指す場合、学習時間が 2000 時間を超えたところで期待できる英語レベルは「英語は流ちょうに話す、英検2級レベル、でもネイティブ並みではない」というところで、インターの生徒並みにはさすが に至らないでしょう。でも、このレベルはバイリンガルの階段としては充分。
小学校時代に英検2級程度を目標とすることは、「目標が高すぎる」と思うご家庭も多いかもしれません。ただこのレベルは、多く のアジア各国の教育熱心な一般家庭で、小学校レベルで身につけさせたいゴールとして位置づけられています。
このレベルまでやれば、大人になった時にバイリンガルとして活躍するうえで基礎体力としては充分に理解されているからです。どこまで英語を身につけるべきかは、一人一人の将来なりたい姿によって正解は異なるでしょう。
AI で代替できる中途半端な英語力レベルの習得なら、その時間を本人が好きな分野を追求して将来に備えたほうが、良いかもしれません。やるなら「聞く・話す・読む・書く」の英語 4 技能をしっかりと。特に自動翻訳で代替されにくい前者2つの技能をしっかりと身につけたバイリンガルを目指していただければと思います。
【ケース別】バイリンガルへの道の検討タイミング
次に英語を始めるタイミングについて考えてみましょう。
外国語習得に限らず、子どもに何か新しいことをさせようとした場合、個人差はありますが、小学校入学前後あたりから好き嫌いが顕著になりますね。
今、日本では英語プリスクールが 700 校程度あるようです。つまり、2 – 3 歳あたりから、英語環境に浸っています。仮に 1 校の1 学年あたりの生徒数が平均 15 人とすれば、毎年 1 万人のバイリンガル 6 歳児が生まれていることになります。
プリスクール卒業生は、バイリンガルの道という意味では非常に良いスタートを切っています。にもかかわらず、日本でバイリンガルな子たちが増加している感じがしないのはなぜでしょうか?おそらく小学校に入ってから、有効な英語継続・向上の打ち手を打っておらず、忘却曲線に任せているから、といえそうです。幼少期は、言語習得カーブも急ですが、「言語喪失」カーブも急なのです。
次に、プリスクールには通わせていなかったが、英語の音声やビデオを見せたり、週に 1 回程度英語学校に通わせているご家庭も多いです。このようなご家庭も、大いにアドバンテージがあります。幼少期に少しでも英語環境に触れた子は、本格的な英語学習に 入った時に、英語や外国人に対する心理的ハードルが低く、興味があるケースが高いのです。
ただし大人が週に 1 度の英会話で英語を習得することがないのと同様、英語が話せるようになることを週に 1 度の英会話やCD に期待するのは、もともと無理があります。バイリンガルの道へのアクセルを踏むかどうか、小学校入学タイミングあたりで決める必要 があるでしょう。
しかし家庭の方針として、「英語は人生の可能性を広げるための重要な技能だから、仕事をする上で困らない程度は必ず身につけて欲しい」と考える場合は、早めに、多くの方が考える以上の時間(2000 – 3000 時間)、英語環境に身を置くこころの準備をしてください。
こちらの記事は以下の書籍を参考にして書いております。
著者:大前研一
共著者:宇野令一郎 株式会社Aoba-BBT常務執行役員
熊本大学大学院非常勤講師(教授システム学)
元アオバジャパン・インターナショナルスクール理事
元ムサシインターナショナルスクールトウキョウ理事長